概要編集
サイド2(ザンスカール帝国)と木星帝国が共同開発した巨大なサイコミュ要塞。
機体中央に艦船の形のコントロールシステムがあり、その周りを天使の輪のような五重のリングで重ねている。そのリングもブロックになっており、そのブロック内では数万人のサイキッカーと呼ばれる人間がコールドスリープ状態になっている。
コントロールルームにて特殊な干渉波を持った人間が祈りを捧げると、数万人のサイキッカーがそれを増幅させ、周辺地域に存在する人間の精神に放ち影響を及ぼす。これの影響を受けた人間たちは闘争本能をなくし精神の退行現象を起こす。そして、無垢な赤ん坊が子守唄を聞いたときのように安らかな眠りにつくのだという。装置が起動し続ける限りは二度と目覚めることはなく、餓死・衰弱死、そして腐乱することになる。
エンジェル・ハイロゥの影響範囲内は地球全土に及ぶため、これは「地球上の全人類を安楽死させる」という恐るべき兵器である(厳密には対象は人類に限らず、多数の動物達が同様の症状に見舞われている描写がある)。
しかし一方で、エンジェル・ハイロゥはあくまでも地球の人類を眠らせるだけの機械にすぎないので、軍事・政治的制圧用としては不適であった。全長20kmという巨大さはどれだけ防御網を固めてもカバーしきるのが不可能なため、拠点的にはもって数日、仮に地球を乗っ取ろうというのなら、その間に地球主要を制圧しきる別の手段が必要であろうという見込みが示されている[1][2]。
さらに、その巨大さと裏腹に船体は非常に脆く、Iフィールドの様な防御兵装も無い為、『Vガンダム』劇中でもビーム一発の被弾だけでかなりの損害を受けており、被弾箇所からはコールドスリープのカプセルが割れて投げ出されたサイキッカー達の遺体があふれ出ている。
本来は、2度の戦争で疲弊しきっていた木星帝国の代表・テテニス・ドゥガチが将来へ向けて立案した3つのプランの一つで、10万人の人間を木星へ移住させる目的の巨大移動船として設計されていた。また、死傷者を出す事無く暴動を鎮圧させる為の手段として、人間を眠らせる「サイクロトロン・ウェーブ・システム」も組み込まれていたが、この特性に目を付けていたサイド2の代表・フォンセ・カガチは、協力したテテニスの意思に反して、地球攻略の為の軍事兵器として転用する事になった[1]。
『Vガンダム』の劇中に登場したエンジェル・ハイロゥは、母性的な抱擁を根底に持つマリア主義の考え方を殺戮兵器に転用させたものと言え、マリア・ピァ・アーモニアの描いていた理想というよりは、カガチの歪んだ理想を具現化させたシステムとも言える。これを用いて地球上の人間を全て眠らせ、緩慢な死に至らしめる事がザンスカール帝国の最終戦略であった。
戦いの結末編集
エンジェル・ハイロゥ発動に向けてザンスカール帝国は全軍を動員し[3]、リガ・ミリティアと地球連邦軍の連合艦隊がこれに応戦。総数ではザンスカール軍が上回っていたものの、ザンスカール軍は各々の艦隊で逐次対抗(「モトラッド艦隊」→「タシロ・ヴァゴ艦隊」→「ズガン艦隊」の順)したのが仇となって各個撃破され、総数を減らし続けた。しかし、戦局が宇宙→大気圏→地球高高度上空[4]へと移っていくと、両軍熾烈な戦いを演じる場所となる。
モビルスーツが取り付けないほどの上空に陣取りサブフライトシステムアインラッドを擁するザンスカール軍が優勢となり、連邦とリガ・ミリティアの連合艦隊は劣勢に瀕し、ついには各々の旗艦(ジャンヌ・ダルクとリーンホースJr.)での艦隊特攻を仕掛けざるを得なくなる。だが、その特攻で連邦総司令官のムバラク・スターン、リガ・ミリティアの中核人物ジン・ジャハナム達、ザンスカール軍総旗艦のダルマシアンに座乗する総司令官ムッターマ・ズガンら全てが死亡・MIAに陥り、ザンスカール側では更にモトラッド艦隊旗艦アドラステア級数隻をも喪失。両軍から急速に統制が失われる混沌の戦場となる。結果的に完全に指揮系統を失ったザンスカール艦隊は連邦艦隊に投降無線を打電するに至った。
しかし、当初エンジェル・ハイロゥのシステムをコントロールしていたマリアがタシロ艦隊壊滅の際に死亡し、コントロールを引き継いだマリアの娘シャクティ・カリンが引き出した「ウォーム・バイブレーション(生命エネルギーの粒子)」は、リングを切り離して小型の輪を作り、両軍の戦闘兵器を大気圏外へと飛ばしていく。また、この一連の急転の最中、ザンスカール帝国最高指導者であるガチ党党首カガチも死亡(一説にはMIA)。指導者達と最終兵器を一挙に失ったザンスカール帝国との戦争は、唐突に終了した。
更に小説版では、このリングの破片で作られた小型の輪で幾つかの戦闘兵器を搭乗している人間毎凍結、太陽系外に飛ばして他の惑星に着弾させる事で生物の種として利用する展開が描かれている。
コミックボンボン版では「エンジェル・ハイロウ」と呼称する。
登場作品編集
αシリーズ編集
- スーパーロボット大戦α
- サイド3を壊滅状態に陥れたことで、その驚異が明るみに出る。部隊内での対策会議ではエンジェル・ハイロゥの干渉波に対抗するため、シュウの案でリュウセイと主人公のサイコドライバー能力を用いた念の送信合戦で中和させるという方法が発案され、この作戦を実行するかしないかはプレイヤーの手に委ねられる。
- 実行した場合、仲間の補助もあり当初は成功するが、途中マリアとシャクティの親子が干渉波を増幅させ、ニュータイプや念動力者を危機に陥れるも、それに打ち克った主人公のサイコドライバー能力により中和作戦のはずが、逆にサイキッカーおよびマリアとシャクティにその意思が伝わり、サイキッカー達は自らその機能を停止させた。
- この現象の際には「念の逆流」「押し返した」等の表現が作中に出てくるが、エンジェル・ハイロゥの送る念をそのまま送り返してサイキッカー達を廃人にしたわけではなく、主人公自身の「サイド3にもたらした凄惨な結果を受け止めて、真の平和への道を見出すために念を送るのをやめてほしい」という怒りのこもった切なる願いを送り、それが届いた結果の無力化である。ただ「念の送信合戦をしていた」という事実を考慮すれば、「押し返した」等の表現が間違っている、というわけでもない。
- 実行しなかった場合、コントロール艦をYF-19とYF-21で奇襲し、エンジェル・ハイロゥの出力を低下せしめるも、弱体化したサイキックウェーブが自軍に浴びせられるが、同じく主人公の怒りの念を感じたマリアとシャクティがエンジェル・ハイロゥを停止させ、その隙に内部に侵入したV2ガンダムおよびウイングガンダムゼロの手によりコントロール艦の機能を破壊されるに至る。ちなみに、本来の『Vガンダム』の主人公であるウッソよりもヒイロの方が圧倒的に目立っており、ツインバスターライフルを回転させてぶっ放し、機能を停止させるという、とんでもない暴力的手段を行使している。
- その後は共通して、ユーゼスの手で地球の太平洋上に落下。そしてネルフ本部でユーゼスに応戦したEVA弐号機に干渉波を集中させてアスカを廃人に追い込んだ。なお、内部のサイキッカーだが、「全員の脳髄を取り出して保管する」という残忍な方法を取っていた事実が判明する。
- 3万人のサイキッカーに『鋼鉄の7人』のカリスト兄弟などが含まれていたのかはプレイヤー間で時折取り沙汰される。ドゥガチはジュピトリアンとは一歩離れた立ち位置にあったらしいため、含まれていない可能性はある。考察以前にメタ的にはα発売当時はまだ『鋼鉄の7人』連載前だったのでカリスト兄弟に関しては存在自体が無かったが。
- オリジナル要素として、クロスゲートドライブによる転移が可能で、ツインバスターライフル数発に耐えられる、海中でも機能を発揮するなどから、原作以上の頑丈さを持っていることがうかがえる。またマリア、シャクティが改心して実質中枢不在になってからも稼働したが、どのような原理なのかは作中では明らかにされていない。
- スーパーロボット大戦α for Dreamcast
- 実はサイコドライバーでエンジェル・ハイロゥの干渉波に打ち勝つのはシュウの案でなく、諸葛亮孔明の案であったことが判明する。
- 作戦内容もロンド・ベル総員の思念を主人公らを送信機およびブースターにして中和するというものに変更されている。
- 第2次スーパーロボット大戦α
- 『Vガンダム』が参戦していないため直接は登場しないが、「ジュピトリアンの巨大サイコミュ装置」とエンジェル・ハイロゥと思われる存在が語られる。オルファンに影響を与えたらしい。
携帯機シリーズ編集
- スーパーロボット大戦D
- 原作通りにザンスカール帝国が発動。シナリオ「幻覚と踊れ」の後半のマップでは、影響を受けたニュータイプが出撃不能で、殆どのキャラが気力70、ヒイロ・ユイのみ気力85から始まる事になる。なお、エンジェル・ハイロゥの影響を受けないのは號、グラキエース、ウェントスだけとなっている。
- サウンドフォースを要請すれば、後にイベントで気力が上がる。サウンドフォースを要請しなければ、気力75から始まり、出撃数が3多くなる。ブルー・スウェアの攻撃で沈黙するが、地形効果が高い上にアドラステア4隻、リグ・コンティオ、ゴトラタンなどボス級ユニットが多数陣取っており、攻略の難易度は高め。
- 実はサイキッカーの中にハマーン・カーンがおり、ある条件を満たす事で仲間にすることができる。
単独作品編集
- 新スーパーロボット大戦
- 建造したが、ロンド・ベル隊の活躍で発動することなく終わった。
- スーパーロボット大戦30
- 今作では木星圏で制作したパーツを地球圏へと運んでから、組み立てるかたちで完成している。同盟者のポセイダル軍が協力していることによって原作における防御面の問題をカバーしている。
- フェネクスに宿るリタの意思はエンジェル・ハイロゥを危険視しており、木星圏と地球圏を繋ぐ拠点であるパラータ・スターや、試作機の実験が行われていたマケドニアコロニーに現れてドライクロイツを援護している。
- ルートによってはフォルツォイク親子によってハーメルンシステムの制御下に置かれ、地球に落とされそうになる。
- 一時期は生きていたゾルタンとIIネオ・ジオングによるサイコ・シャードの共鳴によって、次元境界線が崩壊寸前に追い込まれてしまうが、最終的には多くの人の祈りを受けて飛び立って行き、アクシズ・ショックに続く新たな人の心の光となった。
- また、目指す物や手段が互いに似通っているカガチがカギ爪の男の同志であったというクロスオーバーが為された結果、ルート選択によってはバースデイも決戦の場に現れ、エンジェル・ハイロゥとカガチを称賛すると共に、その機能を利用しようと自軍の前に立ち塞がってくる。
- 危険人物が次々と集まってくる様子からプレイヤーからは「人気物件」と称された。
関連用語編集
余談編集
- 光輪を意味するハイロゥの綴りは「Halo」なので、一般的には「ハロー」あるいは「ヘイロー」と発音する。例えばネオ・グランゾンの光輪はバリオン創出「ヘイロウ」である。
- OVA版『機動戦士ガンダムUC』第2巻のとある場面において「ANGEL HIGH LOW」という看板が登場する。
- 厳密に言うと綴りこそ異なるものの、「エンジェル・ハイロゥ」と読むことができる。これは、おそらく制作側のお遊びであろう。
- 漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト』では木星共和国視点による本来のエンジェル・ハイロゥの開発目的が語られており、元々は死と隣り合わせの過酷な木星圏で暴動等が発生した場合に「周囲に被害を与えず非殺傷で確実に暴徒を鎮圧する」という目的で開発されたものである事が判明。それらの技術をフォンセ・カガチが悪用して兵器転用された事も語られている。
- 『機動戦士Vガンダム』の16年後を描いた漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム DUST』ではエンジェル・ハイロゥが地球近海で全壊した結果無数のデブリが発生しており、地球降下の際には複数の限られた場所からしか降りれなくなったという発言がある。
- 更に『機動戦士Vガンダム』の70年後を描いた『G-SAVIOUR』のPS2ゲームではステージ6の舞台として残骸の一つが登場。セツルメント国家議会軍の過激派がプロジェクト・レイヴンのMW生産拠点として使用していた。あまりにも時間が経過していたためか作中の人物は存在を正確に把握しておらず、「70年前ほど前の戦争で空から落ちてきた」「セツルメント(コロニー)ではないようだけど…」とそれぞれ述べている。
- 『新SDガンダム外伝 ナイトガンダム物語』では「ドゥームハイロウ」という名称の遺跡(古代兵器)として登場しており、劇中ほぼ全てのユニオン族を消滅させている。
脚注編集
- ↑ 1.0 1.1 いずれも漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト』(SRW未参戦)より。同作では「地球侵攻作戦が長引けば10万人のサイキッカー達も無事では済まず、サイキッカーも使い捨ての兵器に過ぎない」と語られており、事実であれば戦略級安楽死兵器としても不完全という事になる。
- ↑ そもそも、コントロールルームにて祈りを捧げる特殊な干渉波を持った人間が必要であり、その人間が複数存在して交代制でない限り、装置としての有効期間は祈る者の体力が持つ限りという点も戦略級兵器として致命的。
- ↑ 漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト』ではごく一部の将兵による反乱行為も発生したが、量的には然したる規模ではない。
- ↑ 最終回のマヤ文明の遺跡から、南米のアンデス山脈の赤道付近で戦闘。また、高高度で飛行できるモビルスーツはV2ガンダムとVガンダム、アインラッド対応型モビルスーツぐらいで、ガンブラスターやジャベリンではサブフライトシステムがないと長時間飛行も浮揚もできない。