ギレン・ザビ(Gihren Zabi)
ジオン公国総帥(国家の最高指導者)。『機動戦士ガンダム』における戦乱の元凶で、利用できるものなら弟の死すら利用し、邪魔になるものなら実父すら殺害する非情な政治家。IQ240というとてつもない天才でもある。
青年時代に父デギンと共にジオン・ズム・ダイクンの指導する独立運動に参加。ダイクンの死後に権力を手にしたデギンの引退とともに権力を受け継ぎ、ジオン公国の事実上の最高指導者になる。サイド3国民が選ばれた民である著書『優性人類生存説』を発表し、多くの国民の支持を得ることに成功し独裁体制を敷く。 デギンから「ヒトラーの尻尾」と揶揄されるほど選民思想が強く、選挙の上手さ、士気向上の上手さなどからしてアドルフ・ヒトラーを彷彿させる。
一年戦争においては、スペースコロニーへの毒ガス作戦やコロニー落としなど、人間の所業とは思えない様な残虐非道な行為を指揮する。人類の半数を抹殺した空前の大虐殺は、人口を強制的に減少させることにより地球環境の保全を図ろうとした為と見られる。
末弟ガルマの戦死を全世界に同時中継するという派手な国葬という方法で利用し、密葬を望んだ父デギンと対立を深める。そしてデギンが講和のために単独で連邦艦隊に赴いた際、連邦軍もろともソーラ・レイで焼き払った。しかし、その事を妹キシリアに知られ、父殺しの男として作戦指揮中に暗殺され、35歳で没した。
大衆を魅了するカリスマ性および巧みな弁舌を持ち、圧倒的数量の地球連邦軍を相手にしながらもジオン軍有利に戦争を進めてきたギレンは、確かに天才的指導者であると言える。 しかし、己の才能に自信を持つ故か、一年戦争末期には不利な状況を軽視する傾向も見られ、そのことが最終的にジオン公国の滅亡および自身の死に繋がってしまったのは皮肉としか言えない。
ジオン・ズム・ダイクンのニュータイプ思想を選民主義的に解釈した「スペースノイドは選ばれた民であり、更にその中の優良種がジオン国民である」という思想は、形を変えつつ後世にも残り続けることになる。ただし、ギレン本人はニュータイプ自体についてはさほど理解を示した様子は無かった(ニュータイプ思想はジオン軍が勝つための「方便」であるとデギンに対して言いきっている)。 また、ガンダムやホワイトベースの活躍に対してもさほど気に留めてる様子も無く、終盤においても「ガンダム一機に手こずるものだな」という程度の認識しか持っておらず、アムロやブライト達との接点は全くと言っていいほど無い。
なお、ギレン・ザビはゲーム業界においては他に『ギレンの野望』シリーズがあるなど重要な存在であるのだが、反面SRWにおいてはファーストガンダムにおける所謂悪の親玉的存在ではあるにも関わらず、原作では主人公達と関わる事なくあっさり身内の手により倒れたり、またモビルスーツや戦艦等一切メカに乗らないままであった為(要塞内部で指揮を取っていた)、いささか印象が薄い存在である。F完結編ではドロスに乗っていたが、原作での他のザビ家の人間の事情を考えれば、ギレン専用のグワジン級の艦があるものと推測される。
登場作品と役柄
旧シリーズ
- 第2次スーパーロボット大戦G
- 名前のみ登場。クロノクルをガルマへの増援として向かわせた。
- 第3次スーパーロボット大戦
- DC幹部として登場。ビアン・ゾルダーク博士亡き後のDCの実質的指導者であった。
- 異星人インスペクターの攻撃が各地で行われた後、好機とばかりにDCの正当性を主張し、DC再興を呼び掛ける一大演説を全世界に向け放送した。その結果DCの戦力の増強に成功するが、ロンド・ベル隊の奮戦、妹キシリアの裏切りによって組織は崩壊した。
- 本作ではドロスに乗る。
- スーパーロボット大戦F
- 完結編の予告で顔見せ。
- スーパーロボット大戦F完結編
- 第3次で死亡したはずだが、謎の復活を遂げる。実はゲストによりクローンとして蘇らされていた。ハマーンに代わりDCの総指揮をとる。
- ギレンの選民主義はそれまでハマーンが行っていたスペースノイドを味方に付けるという方針とは異なり、結果的にコロニー連合とDCは対立。ミリアルド率いるコロニー連合軍に始末される(ポセイダルルート)。キシリアによる暗殺イベントもある(DCルート)。
- ドズルほど明言はしないが、終盤はギレンであってそうでない何者かとして生きることに不安を感じており、プレイヤーの手で倒すと自分の命が尽きることに安心すらしているかのような台詞を遺す。第3次同様ドロスに搭乗する。
- なお、この作品が発売された1998年4月には、同じくセガサターンで『ギレンの野望』も発売され、ギレンの存在がクローズアップされている。
COMPACTシリーズ
- スーパーロボット大戦COMPACT
- 名前のみ登場。本編前にてジオン軍を統括していたが、本編前半にて妹キシリア共々、何者かに暗殺される。
- ちなみに、本作の一年戦争前半は『機動戦士Ζガンダム』のグリプス戦役に相当するので、正史より数年長生きしたことになる。
αシリーズ
- スーパーロボット大戦α
- ジオン軍の総司令官として登場。原作と違い一年戦争後も生き残った事になっている。
- なお、パイロットとして登場するのは1話だけで、しかも5ターン以内に撃破しないとキシリアによる暗殺イベントが発生する為、資金が欲しい場合は積極的に攻め込む必要がある。
単独作品
- スーパーロボット大戦GC(XO)
- 今回もジオン軍の総司令官。序盤が一年戦争に沿った展開ながら、キシリアが自分を撃つ前にシャアに討たれてしまう為、中盤まで生き残りハマーン一派と合流するも、最終的にはハマーンに暗殺されてしまう。戦闘ではグワジンに乗る。なお、弟や妹と違い、台詞の新規収録は行われず。
- スーパーロボット大戦Operation Extend
- ジオン軍の総司令官として登場。外宇宙勢力の脅威の前になんとか連邦との和平に持ち込もうと画策するキシリアやデギンをよそに、徹底して抗戦姿勢を崩さない。
- デギンにより停戦が成立してもなお、アステロイド・ベルトの勢力を「ネオ・ジオン」として再編。建前上は別組織にあたることを利用し、再び連邦に宣戦。連邦およびコネクト・フォースとの戦いを続けるが、一方で自分が倒れることも予期した上で、キシリアとガルマにジオンの未来を託そうとする意思も内心抱いていた。最終的にはアクシズでのコネクト・フォースとの決戦とその結末を受けて、キシリアの仲裁を受け入れて遂に連邦と和平する。キシリアやガルマ同様、最後まで生存した数少ない作品。
人間関係
家族
- デギン・ソド・ザビ
- 実父。老いぼれとみなし、軽視。連邦艦隊と共にソーラ・レイの犠牲にする。
- サスロ・ザビ
- 弟。性格面では割と似た者兄弟だった。彼が暗殺された時は間近にいたこともあってか流石のギレンもショックを受けている。
- キシリア・ザビ
- 妹。自身への絶対の自信ゆえに裏で暗躍するキシリアを軽視していた。それが仇となり、最後は彼女によって暗殺される。
- ドズル・ザビ
- 弟。仲が良かったかどうかは不明だが、デギンがドズルの死を軽視していた事にはギレンですら憤りを感じていたため、僅かながら情を感じていた可能性がある。
- 『THE ORIGIN』に至っては怪我が治っていないのに無理に戻ってきたドズルに具合を聞いたり、再出血で悶絶する彼の姿に不安と呆れが混ざったような表情になったりと、ドズルのことを気にかけているかのような描写が少し増えた。
- ガルマ・ザビ
- 弟。ガルマは何かとギレンに良くしてもらったらしく「ギレン総帥は皆が思っているような恐ろしい人ではない」と言っていたが、その死を政治的に利用した。その際の追悼演説はあまりにも有名。
- ミネバ・ラオ・ザビ
- 面識は無かったが、血縁上の姪にあたる。
ジオン公国軍
- シャア・アズナブル
- シャアからはザビ家の一員という事で憎まれているが、原作では直接は関わらない。
- SRWにおいてはクワトロ時代のシャアと対決する事になる他、COMPACTではキシリア共々彼に暗殺されてしまう。
- シャリア・ブル
- 彼をキシリアへの牽制の為に彼女のニュータイプ部隊へと送り込む。
- セシリア・アイリーン
- ギレンの秘書(小説版では、ほぼ愛人としても描写されている)。劇場版で僅かながら登場しているが、明確に彼女のものと分かる台詞は無い。
- 『ギレンの野望』シリーズでは大幅に出番が増えて、ある意味メインヒロインと化している側面も。なお、SRWでの出演は今のところ無い。
地球連邦軍
他作品との人間関係
ガンダムシリーズ
- エギーユ・デラーズ
- ギレンの親衛隊長を務めた腹心。ギレンを崇拝している。
- アナベル・ガトー
- デラーズと同じく自身に忠誠を誓う人物であるが、第3次では状況によって反旗を翻す。
- ハマーン・カーン
- 競演する作品では部下であるが、F完結編では不信感を抱かれ、αでは途中で対立関係となり、GC(XO)では彼女に暗殺されてしまう。
- グレミー・トト
- 自身の落胤もしくはクローンという説があり、αでは腹心の部下となっている。
リアル系
スーパー系
バンプレストオリジナル
名台詞
- 「我々は、一人の英雄を失った!しかし、これは敗北を意味するのか!?否!始まりなのだ!」
「地球連邦に比べ、我がジオンの国力は三十分の一以下である。にもかかわらず、今日まで闘い抜いてこられたの何故か!?」
「諸君!!我がジオン公国の戦争目的が正義だからだ!」
「これは諸君らが一番知っている。我々は地球を追われ、宇宙移民者にさせられた!」
「そして一握りのエリートが、宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を支配して五十余年!宇宙に住む我々が、自由を要求して、何度、連邦に踏みにじられたか!」
「ジオン公国の掲げる、人類一人ひとりの自由の為の戦いを、神が見捨てるわけはない!」
「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ!!何故だ!?」
「新しい時代の覇権を我ら選ばれた国民が得るのは、歴史の必然である。ならば、我らは襟を正し、この戦局を打開しなければならぬ。」
「我々は過酷な宇宙空間を生活の場としながら、共に苦悩し錬磨して今日の文化を築き上げてきた。」
「かつてジオン・ダイクンは、人類の革新は宇宙の民たる我々から始まると言った。」
「しかしながら地球連邦のモグラどもは、自分たちが人類の支配権を有すると増長し、我々に抗戦をする。」
「諸君の父も、子も、その連邦の無思慮な抵抗の前に死んでいったのだ!」
「この悲しみも、怒りも、忘れてはならない!」
「それを………ガルマは、死をもって我々に示してくれた!」
「我々は、この怒りを結集し、連邦軍に叩き付けて、初めて真の勝利を得る事が出来る!」
「この勝利こそ、戦死者全てへの最大の慰めとなる!」
「国民よ!悲しみを怒りに変えて!立てよ、国民よ!!」
「我らジオン公国々民こそ、選ばれた民である事を忘れないで欲しいのだ!優良種たる我らこそ、人類を救い得るのである!!」
「ジーク・ジオン!!」
大衆『『『ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!
ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!
ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!』』』 - ガルマ・ザビ国葬の追悼演説。この模様は地球圏全域に放送された。
- 「我こそは正義である」という趣旨のプロパガンダ演説はガンダムシリーズの定番となっているが、ギレンのこの演説に勝るものは無いと言っても過言ではないだろう。
- なお、後述するようにTV版はぶっつけ本番に近い代物だった為、劇場版で手直しされている。
- 「私とて、ジオン・ダイクンの革命に参加したものです。人類がただ数を増やすだけでは、人の軟弱を産み、軟弱は人を滅ぼします。」
「地球連邦の絶対民主制が何をもたらしましたか? 官僚の増大と情実の世を作り、あとはひたすら資源を浪費する大衆を育てただけです。今次大戦のような共食いを生んだのも、連邦の軟弱故です。もう……人類は限界を超えましたよ……」
「私はア・バオア・クーで指揮を執ります。」
「まっ……勝ってみせますよ。その上で、真のニュータイプの開花を待ちましょう。ヒトラーの尻尾の戦いぶりをご覧ください」 - ギレンに対し「貴公はヒトラーの尻尾だな」と評した父デギンに対する台詞。ギレン・ザビという人物の性格を実によく現した台詞だろう。
- デギンは「ヒトラーは失敗したのだぞ(劇場版では「身内に殺されたのだぞ」)」と独白するように言ったが、これは後に親子双方に降りかかった最期でもあった。
- 一方、漫画『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』では「ヒトラーの尻尾」と評された時にはギレンは顔を引きつらせ、書類を持つ手が震えるほど激しい怒りを見せており、上述の超然とした態度を見せる事はなかった。
- 「我が忠勇なるジオン軍兵士たちよ、今や地球連邦軍艦隊の半数が、我がソーラ・レイによって宇宙に消えた」
「この輝きこそ、我らジオンの正義の証である!」
「決定的打撃を受けた地球連邦軍に、いかほどの戦力が残っていようとも、それはすでに形骸である。」
「あえて言おう、カスであると!」
「それら軟弱の集団が、このア・バオア・クーを抜くことは出来ないと、私は断言する。」
「人類は、我ら選ばれた優良種たつジオン国々民に管理運営されて、初めて永久に生き延びることが出来る。」
「これ以上戦い続けては、人類そのものの存亡に関わるのだ。」
「地球連邦の無能なる者どもに思い知らせ、明日の未来の為に、我がジオン国々民は立たねばならんのである!」 - 第42話より。ア・バオア・クー攻防戦において、ソーラ・レイの一撃によって大損害を被った連邦軍を「烏合の衆」と非難した演説の中で。
- ただし、この演説シーンをガルマ追悼演説の時と比較すれば、規模や演出において見る影もなくみすぼらしい物になっているのがよく分かる。演説の対象の違いを差引いても、この貧相さからジオン衰退の様子が読み取れる。
- ちなみに、「あえて言おう、カスであると」の部分は「あえて言おう、○○であると!」という形でネタにされることが多く、後年の作品に登場する某エースパイロットもそれを元にした台詞を吐いている。
- 「フフフフフッ。圧倒的じゃないか、我が軍は!」
- ア・バオア・クー戦において有利に戦闘を進める自軍の様子を見ての独白。
- ギレンらしい強気な台詞であるが、区々たる戦場においては優勢にあったとしても、戦局全体で見ればもうア・バオア・クーを落とされれば本拠地サイド3まで後がないという状況である。ある程度軍事的知識があれば、決して「圧倒的」とは言えないのであるが。
- 「ふっ、冗談はよせ」
- ア・バオア・クー戦においてキシリアに銃を向けられた際の台詞。キシリアを軽視していたことが災いしてか、ギレンはキシリアに暗殺されることとなった。
- なお、周囲の兵士にはギレンの暗殺を阻止したり、彼を殺害したキシリアを討とうという者は一人もいなかった。結局のところ、身近な立場の人間にとってギレンという人物は、畏怖の対象でしかなかったのかもしれない。
- これに対し、漫画『THE ORIGIN』ではギレンの暗殺を知った将兵がその場に居合わせたセイラ・マスを旗頭にしてキシリアに反乱を起こしており、ギレンのカリスマ性がキシリアの予想以上に高かった事を示している。
スパロボシリーズの名台詞
旧シリーズ
- 「…私の命運もここまでということか…だが、何だ? この感覚は…安堵? だが何故? ふふふ、そうか、そういうこと…ふははははは!」
- F完結編でプレイヤーにより倒された際の最期の台詞。死に際にあって全てを納得したようである。
話題まとめ
- ギレン・ザビ役の声優である銀河万丈氏は後年ラジオ番組『サンライズラヂオG!』で、「(悪役が出来るのが売りという)自分のイメージを定着させたいという意味では、ギレンは落とせない役だと思った」と述べている。
- その性格から、ファンの間からもアドルフ・ヒトラーになぞらえられる事が多い。実際、富野監督はアフレコの際に銀河万丈氏に「ヒトラーのように喋ってくれ」と注文をつけたとのこと。
- 銀河万丈氏はギレンのトレードマークのようになったガルマ追悼演説について「(本放送時の演説は)自分では気に入らなくて、いろいろ直そうとしたが、結局録り直しにはならなかった」と明かしている。
- なお、富野監督は自分が監督した作品の中で一番自分に近いキャラクターに、ギレンを挙げている。
- いわゆる「トミノメモ」によれば、グラナダ陥落後は最前線で指揮を執り、シャアの正体を知りながらも戦力として使える内は使うという鷹揚さを見せ、更にニュータイプ部隊を積極的に前線に投入するなど、現在とはだいぶ異なった人物像であった。
- 雑誌『ぴあ』のムック『愛と戦いのロボット 完全保存版』に掲載された読者アンケート「一番極悪な悪役・敵役は?」の項目では断トツの第1位に輝いている。
- ちなみに第2位はDr.ヘル、第3位はキラー・ザ・ブッチャー、第4位はムルタ・アズラエルとスパロボシリーズでお馴染みの悪役達が揃っているが、ギレンのカリスマには及ばなかったようで、3人の票を足してようやくギレンの票を僅かに超えた程である。