ジオン残党軍

ジオン残党軍とは、『宇宙世紀ガンダムシリーズ』に登場するテロ組織。

概要 編集

一年戦争で敗戦したジオン公国軍の脱走兵達で構成されたテロ組織。

作中では「旧ジオン軍」や「ジオン残党」とも呼称され、宇宙世紀ガンダムシリーズでも複数のストーリーを通して活動を続ける事になっている。また、「基本的にはジオン公国軍時代の脱走兵達」の事を指すが、媒体によってはハマーン・カーンシャア・アズナブル率いる『アクシズネオ・ジオン)』、フル・フロンタル率いる『袖付き』もジオン残党軍として扱われる事がある。

組織形態 編集

一年戦争の終盤に勃発したア・バオア・クー攻防戦にて、指導者であるデギン・ソド・ザビギレン・ザビキシリア・ザビ等が斃れた影響により、ジオン公国軍の地球連邦軍との戦いは「敗戦」が決定的となり、サイド3の本国であるジオン公国が降伏した事で戦争は終結。戦後、ジオン公国は共和制国家である「ジオン共和国」として再起する事になり、同時に公国軍もまた「ジオン共和国軍」へと再編成される事になった。しかし、「軍人」よりも「武人」としての思想が強かった[1]と言えるジオン公国軍側では、自分達が戦争で敗北したという現実を受け入れられなかった多くの軍人…特に地球に残留して抗戦を続けていた者達が、共和国政府の原隊復帰命令を断固として拒絶。軍を脱走し、宇宙や地球圏の各地で旧公国再興を掲げるテロリスト勢力として連邦に抵抗する活動を開始する事になった。これがジオン残党軍の始まりとなっており、複数の派閥に別れて世界各地で行動をとっている。

戦力となるモビルスーツの殆どは、ザクIIを始めとする一年戦争からの自軍機や連邦軍を襲撃して鹵獲した機体を維持・改修した物で構成されており、中には共食い整備もする等、かなり切羽詰った状態となっている。第2次ネオ・ジオン抗争以降は、グリプス戦役第1次ネオ・ジオン抗争において使用されたモビルスーツをティターンズネオ・ジオンの人員ごと手に入れたり、鹵獲や裏取引等によって入手・運用している。しかし、当時の主力モビルスーツと比較すれば旧式ばかりである事は否めない事実で、ワッツ・ステップニー曰く「動く戦争博物館」と揶揄される程である。更には、一年戦争の後半にて追い込まれたジオン軍側がモビルスーツを放棄する形で宇宙へ撤退したり、撃破されたMSの残骸やパーツが回収されずに多数残っていたのが原因で、終結直後は(連邦軍もだが)相当な数のジオニック・ツイマッド・MIP製モビルスーツが野晒しで残されてしまった結果、既に旧式化したものばかりとは言えジオンとは無関係の組織、勢力にまでモビルスーツの力を与えてしまう事になっている。『青の部隊』や『アフリカ解放戦線』といった反連邦を掲げるテロ集団だけでなく、野盗や海賊といった反社会勢力までもが、それらを回収して修繕・改修を行い悪事に使用しており、第1次ネオ・ジオン抗争の時期には、地球内での戦争・紛争をより混迷化させてしまっている。

一年戦争時より政治的に対立関係にあったギレン、キシリア、ドズルの三兄弟とその傘下にあった軍同士の対立の影響もあってか、所属する者達の思想面に関しても統制されているとは言えず、ジオニズムを信奉して狂信的なまでに「ジオンの栄光」に固執しているジオニスト達や、目的も無く単に連邦への憎悪や反抗の為に潜伏している者、過酷な潜伏・逃亡生活に疲れた事で潜伏先に定住して家庭を持った者もいれば、軍人としての誇りすら失ってただの略奪者やならず者に成り下がってしまった者、戦争や殺戮に飢えているだけの戦争屋紛いの者、挙句の果てには平和の味に慣れてしまい連邦軍に一斉投降して数ヶ月の事情聴取と引き換えにサイド3へと送還された者等と様々である。残党軍の中でも最大勢力であったデラーズ・フリートが壊滅してからは悪化の一途を辿ってしまった模様で、ジオンの後継組織でザビ家の末裔であるミネバ・ラオ・ザビを擁するネオ・ジオンの事は同胞と見なさないばかりか、一年戦争時より闘ってきたベテランとしての自負心から「一年戦争の過酷さを知らない若造共の集まり」と見下してさえいる傲慢な者もおり、まともに足並みを揃えようとしなかった結果、ネオ・ジオン側からも捨て石にされたり暗殺されてしまう事になっている。ラプラス戦争の時期に至ってはジオンの消滅がほぼ決定的になった事で「スペースノイド独立」の望みが完全に断たれ、まともな抵抗活動も出来なくなるまで切り詰められた結果、自分の命と引き換えに一人でも多くのアースノイド(軍人も民間人も問わず)を道連れにするという無理心中も同然で破壊活動を行う等、死に体の有様となってしまっている。その光景を目の当たりにしたバナージ・リンクスからは「虐殺」と断じられており、ブライト・ノアからも「シャアの後裔を自認する連中のやる事とは思えんな」と呆れられ、同じジオン残党系組織である袖付きのアンジェロ・ザウパーからも、「忠義面して世界を滅茶苦茶にした戦争屋共」と酷評されている。

長年に渡ってもたらされたその被害は、戦争に勝利した地球連邦側にとっても軽視出来ない物となっており、特にデラーズ・フリートの引き起こした「デラーズ紛争」では、アナベル・ガトーが奪取したガンダム試作2号機の核弾頭によってコンペイトウの観艦式に参加していた旗艦「バーミンガム」を含む大多数の艦隊を壊滅に追いやられた挙句、一年戦争のルウム戦役時における悪夢の再来と言える「コロニー落とし」が再び行われてしまう事態となっている。この結果、連邦軍のタカ派の軍人達の発言力が大きく高まり、後の宇宙世紀の歴史でも「ジオン残党狩り」を名目にスペースノイドへの弾圧を徹底的に行う過激派の軍事組織「ティターンズ」が結成されてしまう大きな切っ掛けとなっており、『30バンチ事件』等の遠因にもなっている。また、デラーズ・フリートの蛮行の数々からも、一年戦争時のみにおける戦時条約とは言え南極条約の禁止事項も平然と無視する傾向があった為、連邦政府によってジオン残党軍はジオンの正規軍としては認められず、あくまでも「テロリスト」として扱われる事で南極条約に含まれていた「捕虜に対する丁重な扱い」は適用されない事になってしまい、連邦軍に捕らわれたジオン残党軍の兵士達は情報局から容赦の無い拷問と尋問を受ける事態となってもいる。

各ストーリーでの様相 編集

敗残兵で構成された組織でありながらも、一年戦争の時は健在であったジオン公国軍よりもその歴史は非常に長い物となっている。

機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY機動戦士Ζガンダム
一年戦争終結後からのジオン残党軍による本格的な反連邦活動は、デラーズ・フリートによる支援を受けた『インビジブル・ナイツ』によって起こされたマスドライバーによる地球攻撃である『水天の涙作戦』が皮切りとなっており、数年後にはデラーズ・フリートが実行に移した『星の屑作戦デラーズ紛争)』によって地球圏に多大な混乱を巻き起こし、結果として上層部が腐敗し始めていた地球連邦内では、「ジオン残党狩り」を名目に結成されたティターンズが発言権を強め専横を極めていく要因になっている。デラーズ紛争後には、祖国であるはずのジオン共和国をも「売国奴」と見なしていた事から、サイド3のコロニーに向けて気化弾頭による攻撃を行う『狼の鉄槌作戦』までもが実行に移され、最終的には阻止されている。
ティターンズの発足から数年後には、それらと敵対するエゥーゴカラバに参加する残党勢力も存在した。彼らの協力があったため、カラバはアムロ・レイ専用機を彼らの感情を刺激しかねないガンダムタイプにする事が出来なかったという話もある。
機動戦士Ζガンダム
グリプス戦役の中盤以降には、シャア・アズナブルも一時は滞在していた、ザビ家の遺児であるミネバ・ラオ・ザビを神輿にした勢力アクシズが参戦する。
機動戦士ガンダムΖΖ
先の戦役から存続していたアクシズはネオ・ジオンと改名し、連邦政府に対して軍事行動を開始した。いわゆる第1次ネオ・ジオン抗争である。地球に潜伏していた一部の残党勢力はネオ・ジオンに合流しているが、一年戦争の時から戦っていたプライドの高い者やギレン・ザビを信奉する者が多くいた為に、ザビ家の遺児であるミネバを傀儡も同然にしているハマーン・カーンや、一年戦争後に軍に入隊した者が多いネオ・ジオンそのものに反感を抱いた結果、あまり彼らと足並みを揃えようとはしなかった。この為、ネオ・ジオン側からも、自分達に合流したジオン残党等一部を除いて旧ジオン軍の残党勢の殆どは陽動や敵の戦力を削ぐための捨て駒程度のものとしてしか認識されていなかった。
ドワッジやディザート・ザクを使用していたデザート・ロンメルシュツルム・ディアスを受領したサトー率いる部隊等がその最たる例である。一方で、ザク・マリナーを受領したエイン、ビーツ、フリン(全員SRW未登場)、ドワッジを使用していたアマサ・ポーラ(SRW未登場)、ジャムル・フィンを駆るダニーデルデューンの様に、プロの軍人としてネオ・ジオンと波長を合わせようとする者達も存在している。また一方では、ネオ・ジオンとの合流を明確に拒否する形で反連邦活動を行っている旧ジオン軍勢力も存在するが、独力で連邦に打撃を与えることは叶わず、いたずらに治安を悪化させ反ジオン感情を高めるだけに終わっている。その為に連邦側はおろかジオン共和国やネオ・ジオンからも傍迷惑な存在であると認識されている。
また、ジオンとは無関係(後にネオ・ジオンの兵士と手を組むことになるが)である「青の部隊」や「アフリカ解放戦線」といった武装集団もドワッジゲルググ、アイザック、ディザート・ザク(後者2機種はSRW未登場)といったMS(資料によっては「ジオン残党からの戦利品」という記述あり)を運用してる。
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア
第2次ネオ・ジオン抗争時は、シャア率いるネオ・ジオンにハマーン派ネオ・ジオン残党の一部が合流しているが、旧ジオン軍の合流は確認されていない。
機動戦士ガンダムUC
ラプラス戦争では、ネオ・ジオンの残党を糾合した「袖付き」の首魁フル・フロンタルによる決起の呼び掛けを受けた事で、世界各地に潜伏していた旧ジオン軍の残党勢力が地球連邦の首都であるダカールを襲撃。最終的には失敗に終わっているが、ロニ・ガーベイの搭乗するシャンブロヨンム・カークス率いる残党軍によってダカールに壊滅的な被害を与える事に成功しており、OVA版ではダカールに続いてトリントン基地も襲撃をした。しかしこの時も旧ジオン軍はネオ・ジオン勢力とと反目していたらしく、敵諸共攻撃するという酷い体裁を露呈させる事さえもあった。
A.O.Z Re-Boot ガンダム・インレ-くろうさぎのみた夢-(SRW未参戦)
一年戦争終結後、スペース・コロニーの建設と時を同じくして開拓されていた火星を制圧したキシリア派のジオン残党が「ジオンマーズ」を名乗り、火星を実効支配していたが、その支配に反感を持ち、離反したギレン派主体の組織「レジオン」が、ザビ家の末裔とされる少女「アリシア・ザビ」を旗印に、グリプス戦役から落ち延びたティターンズ残党を迎え入れ、彼らが持ち込んだガンダムTR-6[インレ]を中核とするTR計画機を使いジオンマーズより火星を奪回。
宇宙世紀0089年の時点ではレジオンが火星を実効支配しており、ジオンマーズは地下への潜伏を余儀なくされている。
ジオンマーズはジオン残党の例に漏れずジオン系のMS・MAを主力としているが、レジオンは他のジオン残党に見られない特徴として、ティターンズ残党が持ち込んだ連邦系のMSを再生産し、主力機体として積極的に導入している。
機動戦士ガンダムF90
残党の一部には火星にまで逃れた勢力も存在し、一年戦争終結から実に40年近くも経った後の宇宙世紀0120年に、ザクグフといった一年戦争で活躍した機体を模したMSを使い本格的に決起している(漫画『クライマックスU.C. 紡がれし血統』や『F90ファステストフォーミュラ』では0116年から行動を開始していた)。旧型機を模したMSを使用するジオン公国軍の残党は、連邦から「オールズモビル」と呼称され、後に「オールズモビル戦役」と呼ばれる戦いを引き起こしている。これ以降は、ジオン共和国の自治権放棄、連邦政府による思想統制の影響もあってか公に旧ジオン軍の残党らしき勢力は出現して大規模な反政府運動は行っていない。
『A.O.Z Re-Boot』のジオンマーズは、オールズモビルの前身となったとされる。また『F90ファステストフォーミュラ』ではオールズモビルは火星のジオン残党を中心にした複数のジオン残党の集まりとも解釈できる(連邦は区別せずに使用MSからまとめてオールズモビルと呼んでいる)描写になっている。
機動戦士ガンダムシルエットフォーミュラ91(SRW未参戦)
U.C.0123年に放棄された7バンチコロニーに、ネオ・ジオン軍残党が隠れ住んでいた。この時代残党狩りは禁止されており彼らの生きる権利は政府によって保証されており保護の対象になっている。残党を祖先に持つ難民というべきか。なお作中の説明から逆算するとオールズモビル活動時に既に残党狩りが禁止されていたことになる。禁止されているのは飽くまでテロなどを行わない者だけなのだろう(逆に言えば残党狩りとは基本的に非戦闘員や民間人も対象にしていたことになる)。
機動戦士クロスボーン・ガンダム スカルハート
やんごとなきお方の命令を受け継いでいた残党の存在が明らかになったが、トビア・アロナクスハリソン・マディンが介入した時には全滅していた。

ジオン公国の元兵士・信奉者が参加した組織編集

機動戦士Ζガンダム
グリプス戦役では、シャア・アズナブルを始めとした元ジオン公国兵がエゥーゴに合流し、スペースノイドを弾圧するティターンズと戦った。
ガイア・ギア(SRW未参戦)
シャア・アズナブルの思想に共鳴した人間達が作り上げた組織『ズィー・ジオン・オーガニゼーション』が登場する。
組織名にジオンという名前は入っているが、ジオン公国とは関係がない。また、ネオ・ジオンとも関連性を持たせようと付けた名前ではないと作中で明言されている。構成員の中には、ジオン公国の信奉者も存在したが、組織としての立ち位置はエゥーゴに近いと言える。

脚注編集

  1. 皮肉にも、ランバ・ラル黒い三連星といった視聴者からも人気の高い一年戦争で戦死したパイロット達の殆ども、武人肌の強い者達だったと言える。

資料リンク編集