南極条約は『機動戦士ガンダム』において、一年戦争時に南極にて地球連邦政府ジオン公国の間で結ばれた戦時条約。

概要 編集

南極条約は一年戦争序盤で南極で行われた地球連邦政府とジオン公国の会談にて、当初は開戦からルウム戦役で大勝したジオン側の要求に沿った休戦条約として締結されるはずであった。しかし、その会談中にジオン公国軍の捕虜になっていた地球連邦軍の将校・レビル将軍がジオン公国から脱出。彼がジオンの内情を暴露した演説「ジオンに兵なし」によって、事態は一変する。その結果、連邦政府は態度を豹変させ、ジオン側が休戦を諦めて戦時条約が結ばれるだけに至った。

しかし条約を締結したと言うことは「ジオン公国は地球連邦が条約を結ぶべき存在=国家であると公認した」という意味合いもある。そのため「地球連邦からの独立」「スペースノイド国家の建設」を標榜するジオン公国からすると、これもまた歴史的な転換点であった。事実デギン・ソド・ザビ「地球連邦はジオン公国をして初めて宇宙移民者の『国家』を認めた。ダイクンのやり方ではしょせん民間レベルの政治運動でしかなかった」と、ジオン・ダイクン時代の旧ジオン共和国[1]と比較しながら、条約締結の重要性をギレン・ザビに説いている。

南極条約の主な内容としては、「核兵器コロニー落としをはじめとした大量殺戮兵器の使用禁止」「サイド6をはじめとした中立地域、グラナダ以外の月面都市、木星船団への戦闘行為の禁止」「捕虜の扱い」について取り決めている[2]

だが、この条約は本来ジオン側が提出してきたものであるにも拘らず、一年戦争中においてジオン側はオデッサ作戦におけるマ・クベ大佐の水爆使用や連邦軍の捕虜であるバスク・オム大佐に対する後遺症が遺るレベルの拷問など、「戦争に勝てば揉み消せる」とばかりに平然と条約違反的な行いを繰り返しており、ほとんど意味を成さないものとなっていた[3][4]

なお、マ・クベの水爆ミサイル発射時に「核兵器を使わぬと約束をした南極条約」と言及した点や、核ミサイルを所持して恫喝にも使っている現状を「条約違反」とは見なしていない点、当該核ミサイルの設計図を地球連邦軍が所有していた=マ・クベの核兵器所持を連邦側が知っていた点、そしてその設計図について「南極条約締結時の公開データに基づくもので信頼できる」という発言があった点から、「核兵器の使用禁止」はあくまで「使用」のみの禁止であり、「保持」および「開発」は禁止されていないことが描写されている。

戦後の南極条約 編集

あくまでも戦時条約であった南極条約が、一年戦争が終結した宇宙世紀0080年1月1日の時点で失効した後、『0083』の時代にて、度重なるジオン側の条約無視の抑止及び報復手段として、連邦側では戦術核搭載モビルスーツであるガンダム試作2号機が開発されることになっている[5]。しかし、デラーズ・フリートは、「一年戦争の終戦は、ジオン公国とは無関係の政権であるジオン共和国が勝手に行ったもので、未だに一年戦争は継続中である」と自分勝手な解釈をする形でガンダム試作2号機の開発を条約違反と指摘。地球連邦政府を糾弾する演説を行い、更には明確な条約違反である核兵器の使用だけでなくコロニー落としまで行っている。こういった部分もあってか、連邦側もデラーズ・フリートを始めとするジオン残党軍を、あえてジオンの正規軍とは認めず、「ただのテロリスト集団」として扱うことで、彼らに対して南極条約の一つである「捕虜に対する丁重な扱い」は適用させないことになっており、彼らに関わる者はいずれも連邦側の情報局から容赦のない尋問と拷問を受けることになっている。

しかしながら、南極条約の内容は後の時代にも暗黙の了解(慣習法)として広く認識されており、核兵器の使用などについても禁忌扱いされているらしく、一種の不文律として後の時代に影響を残し続けた。『0083』の時代から50年近く経過した『機動戦士クロスボーン・ガンダム』においても、核兵器を持ちだした木星帝国に対して連邦軍の軍人が「南極条約違反だ」と非難する場面がある。

登場作品 編集

第3次スーパーロボット大戦
ロンド・ベル隊の捕虜となったキャラ・スーンが口にした。内容は原作におけるコズンの台詞と同様のもの。
スーパーロボット大戦A
ガンダム試作2号機が核を装備していることについて、ブライトが南極条約を理由に三輪防人を非難し、それに対して三輪が南極条約は地球人の間で結ばれた条約なので異星人には適応されないと反論しているほか、京四郎は南極条約を守る気がない三輪なら捕虜への拷問くらいはすると予想した。
第3次スーパーロボット大戦α 終焉の銀河へ
ナタルが大気圏突入時のザフトとの戦闘において、「手を出せば南極条約に抵触する」として避難民を乗せたシャトルを射出するが、ザフトによって撃墜されてしまう。
また、ムルタ・アズラエルプラントへの核兵器の無差別投入を命じた時は、三輪が南極条約で禁止されていることを指摘して止めようとしたが、核攻撃は実行されてしまう。
スーパーロボット大戦V

余談 編集

  • 現実世界における「南極条約」とは、南極大陸の平和的利用を目的として制定された「軍事利用の禁止」や「領有権主張の凍結」などを定めた条約のことを指す。
    • SRWでは『DD』の「第1回共闘戦」でこちらの南極条約について触れている。
  • 『トニーたけざきのガンダム漫画』でコズン・グラハムブライト・ノアたちに熱々のおでんを食べさせられるシーンから、ネット上では熱々おでんを食べさせる行為を「南極条約違反」とネタにされている。[6]
  • ガンダムSEED』シリーズにも「コルシカ条約」という捕虜の取り扱いなどを定めた戦時条約が存在している。ただし、絶滅戦争の体をなすほどに憎しみ合いが深刻化してしまったコズミック・イラ世界ではあまり抑止力になっておらず、パナマではザフトが、第三次ビクトリア攻防戦では地球連合が、それぞれ条約を無視した虐殺行為を行うなどの地獄絵図となってしまった。

脚注 編集

  1. 要は「自称国家」であり、対等な国家として連邦から認められていなかった。事実、ジオン・ダイクンが「ジオン共和国の独立」を宣言したのは0058年のことだが、それから九年も経過した0067年に「ジオン・ダイクンが提出したコロニー自治権整備法案を連邦議会に提出」とあるように、その時点でジオン共和国は独立国として扱われていなかった。
  2. ちなみに、南極条約が『機動戦士ガンダム』劇中で初めて言及されたのは、第16話「セイラ出撃」におけるブライト・ノアコズン・グラハムの会話においてであり、この時点では捕虜に対する扱いについての話題だった。
  3. そのくせ自分たちが捕虜の身となると、「南極条約」を盾にする形で身の安全を図ろうとするなど、ジオン側はこの条約を都合の良い形で利用している部分が目立つ。
  4. バスクに対して行った拷問は、ただでさえアースノイド至上主義であった彼に、スペースノイドへの常軌を逸した憎悪を植え付け、後の30バンチ事件グラナダへのコロニー落としといった蛮行にまで繋がっている。
  5. なお、南極条約では核兵器の「使用」は明確に禁止されているものの、「保持」および「開発」については違反ではない。
  6. コズンが条約違反だと指摘すると、ブライトは「これはおでんではなく関東炊きだ」と言って取り合わなかった。なお玉子は「最終兵器」と呼ばれ他のホワイトベースクルーから恐れられていた。

資料リンク 編集