ラプラスの箱とは、『機動戦士ガンダムUC』に登場するキーワード。
概要編集
『機動戦士ガンダムUC』の鍵となる謎の物体。『箱』という名称からも箱型であるのは確かである。宇宙世紀0001年に起きた地球連邦政府の首相リカルド・マーセナスを始めとする多大な犠牲者を出したスペースコロニー「ラプラス」の爆破テロである「ラプラス事件」で所在不明となった事が名称の由来となっている。現在はサイアムの元に秘匿されており、真実か否かは定かでは無いが「ラプラスの箱が開かれる時、連邦政府は滅びる」という噂がある。
事件当時、テロの実行犯でもある青年…後のサイアム・ビストは、仲間達と共に作業艇で撤退する中、証拠隠滅の為に仕掛けられた爆弾により仲間達全員が死亡。ただ一人、船外作業中であったサイアムだけは吹き飛ばされるだけで運良く生き延び、更にはコロニーの爆発で吹き飛んだ「箱」を偶然にも発見し、回収する。その後、裏社会で頭角を現していったサイアムは、ラプラス事件のテロを画策したリカルドの息子ジョルジュ・マーセナスを中心とした保守派勢力への交渉(正確には脅迫)に使う。
「箱」はリカルド・マーセナス首相の暗殺が連邦政府内の極右派による自作自演である事を裏付ける決定的な証拠となりえた(逆に言えば当時はその程度の意味しかなかった)為、当初は「箱」の奪回とサイアムの暗殺計画が何度も持ち上がったが、「箱」を手にしたサイアムの要求は連邦政府に些細な便宜を図らせる等、政府の存続自体に影響のない程度であった。その為、政府は「リスクを負ってでもサイアムを消す」よりも、「主導権を握られた共生関係を続けて様子を見る事」を選択。これによりサイアムは巧みに共生関係を築いていく事で、当時は田舎の新進企業に過ぎなかったアナハイム・エレクトロニクス社を急成長させていく。その功績によって、役員待遇でアナハイムに迎えられた後は専務の娘婿となってその地位を強固な物とし、やがてはアナハイムを苗床にして自らを首魁とする「ビスト財団」を立ち上げ、巨大化させていくまでに至った。
一方、サイアムは「箱」を利用して上手く立ち回る事で、それを握る己を守りつつ「箱」を自身から切り離して秘匿し続け、同時にいずれ来たる「箱」の開放に備える為にビスト財団を作り上げていた。そして、第2次ネオ・ジオン抗争が集結して3年後、機が熟したと判断したサイアムは「箱」を解放させる為の計画を実行に移し、これが後に「ラプラス事変」と呼ばれる戦いの引き金となった。
『箱』の正体編集
その正体は、宇宙世紀改暦セレモニーで公開されるはずだった宇宙世紀憲章を認めた石碑のオリジナルであり、サイアムの眠る氷室を収めた航宙艦メガラニカに封印されていた。
サイアムの持ち帰ったオリジナルの石碑にはレプリカにも刻まれた第六章に加え、「七番目の章立て」が存在し、未来と銘打たれたその章には、「地球圏外の生物学的な緊急事態に備え、地球連邦は研究と準備を拡充するものとする」「将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、その者達を優先的に政治運営に参画させることとする」の2つの条文が記されていた。これはリカルドがコロニーに移住する人々へ向けた手向けであり、人類の未来に向けた祈りでもあった。
『箱』の意味の変遷 編集
サイアムが回収し脅迫に利用した「箱」の持つ力は、「リカルドの暗殺が息子のジョルジュを中心とする政権による陰謀だった」というかつての連邦首脳陣に関する一大スキャンダルが暴露される程度の物でしかなかった。レプリカにはない第七条碑文の存在は、時が経って当事者がこの世を去ってしまえば「だいぶ前の政権が起こした事件の遺物」でしかなくなり、だからこそ時と共に風化し、徐々に「箱」の価値を失われていくはずだった。
だが、スペースノイドの独立を主張したジオン・ズム・ダイクンによって提唱されたニュータイプ論が「宇宙に適応した新人類」という箱の碑文と重なった結果、「地球連邦はジオニズムと同じ思想を持ち、新人類の発生を予見した上で、それを秘匿・否定していた」という事実が後付けで発生してしまい、本来は未来への「祈り」であったその碑文は「呪い」へと転じてしまう[1]。
もし「箱」の存在がジオニズム信奉者達に知れれば、彼等はその碑文を根拠に政治的権利を主張するのは必然で、それを拒む連邦との間で激しい衝突が起こることも予想された。何よりも「存在を知りながら隠し続けた」という事実が、「連邦の政治的・思想的な不正義を証明する口実」として使われるのは明白であった為、連邦政府は沈黙し、秘匿し続けるしか道がなかった。
この偶然の一致の結果、「箱」そのものではなく「箱」を封じたという事実の方が重くなり、更にサイアムが政治工作により「箱」その物の意味を自らから遠ざけた結果、「サイアムの立ち上げたビスト財団を潰しても『箱』の秘密も所在も全く分からないまま」という状態が成立。この結果、「『箱』=宇宙世紀憲章の石碑」という単純な真相が世に出る事のないまま、サイアムの存在からその(政府にとっての)危険性だけが一人歩きしていき、ある種の都市伝説として広まっていくことになる。
しかし、「箱」の真実が知れ渡れば、ジオンを信奉するスペースノイドだけでなく、ジオンに反感を抱き連邦側についているスペースノイド達でさえも掌を返して連邦を倒す為に団結し、最悪の場合は「アースノイドとスペースノイドの二分化による真の意味での殲滅戦争」となってしまう可能性も否定出来なかった。戦争のダメージが色濃い今そんなことになれば、人類種そのものが確実に滅んでしまう。その危険があるからこそ、政府は何としても「箱」を隠し続けなければならなくなり、一年戦争の惨劇を繰り返さない為、「宇宙に適応した新人類」を旗頭とするスペースノイドの希望を砕く為、ニュータイプを否定しなければならなくなった。もはやそこには連邦側にとっての利益や保身など関係は無いも同然で、ビスト財団や真実を知る者たちの既得権益を守るためだった癒着構造は「『戦争』という最悪な事態を回避し、どんな形であれ『平和』を維持していく為の必要悪である」と意味付けがなされ、ますます「呪い」が重くなっていったのである。
そして皮肉にも、連邦の象徴と言うべきガンダムタイプの乗り手達の多くは、政府が否定するしか無かったニュータイプとしての力を開花させていってしまう。「『ニュータイプ』と称されるジオンの思想と第七条碑文の正しさを証明し得る存在」に政府は振り回され続け、「ニュータイプが進化の可能性である」という事実を否定する為に「強化人間の研究」という更なる非道にも手を染めなければならなくなる等、「呪い」は重くなる一方であった。
だが、政府は最終的にこの「呪い」にケリをつけるべく、人工ニュータイプとガンダムを用いてジオニズムとニュータイプを根絶する計画を始動。これにサイアムが相乗りし、「箱」の開放を決断したことで、ラプラスの箱を巡る最後の戦いが始まったのである。
登場作と扱われ方編集
多種多様な異星人や異世界からの来訪者が存在するスパロボの世界においては、スペースノイドの権利保障というだけでは価値が弱くなってしまう。そのため、スパロボではいずれの作品においても、原作同様の意味に加え「何かの重要な秘密」が付与されている。 ただ、原作ではむしろ「結局意味が無かった」と言う所が物語の核となっているので[2]、その点では、大きく役割が変わっていると言えるだろう。
Zシリーズ編集
- 第3次スーパーロボット大戦Z時獄篇
- 作品全体のキーワードの一つとして扱われている。作中原作での謎の答えにほぼ近い推測が自部隊からあげられたが、無数の世界が混ざり合った多元世界では箱の中身はあまり意味を成さないだろうとされていた。しかし「人類の進化を監視する」と称するクロノ保守派の「教義」がこれを守ることであるとされており、そこからするとZシリーズの「箱」には原作とは異なる、もしくは世界観に関する何らかの根本的な手がかりが追加で記されているとも考えられていた。
- カーディアスによれば「本来あるべきだった未来を取り戻す力」があり、「使い方を間違えば世界を滅ぼす=箱の開放によって変革した人々の意識が滅びを望めばそうなる」ものであるという。
- 第3次スーパーロボット大戦Z天獄篇
- 箱の内容自体は原作同様であったが、サイアムがラプラス事件の際に御使い(恐らく哀しみのサクリファイ)を目撃し、さらにエルガンの来訪によって並行世界と人類に進化を禁じる「管理者」の存在を知ったことが明かされている。
- 即ち、進化した人類が優先的に政治に関われるという第七章の条文は、本作においては「管理者による支配に抗う」という宣言でもあった。これらの事実はサイアム、エルガン、イオリアにより、箱の開放が決定された時点で「コード:ラプラス」がメガラニカから発信され、ヴェーダがそれを受信することで最奥部のプロテクトを守るリボンズ・アルマークが、エルガンがあらかじめ録画しておいた「サイデリアルとクロノによる人類の管理と飼育に関する公表映像」を全世界のネットワークに公開するよう仕掛けられていた。
- カーディアスの言っていた箱の真の力とは「真実を知った上で、それでも絶望の未来に立ち向かうための意思を持つ力を手にすること」であった。
携帯機シリーズ編集
- スーパーロボット大戦BX
- 箱の中身(憲章の碑文)については原作同様。本作では、碑文の最後の一節『未来』とそれをめぐる歴史は、宇宙に人々を棄民した事への贖罪すなわち「宇宙への祈り」であり、同時に連邦初代首相リカルド・マーセナスの「祈り」であったが、暗殺事件により「呪い」に変えられ、箱を巡って積み重ねられた歴史と犠牲がさらに「呪縛」を大きくしたという解釈がされている。また、憲章の碑文が発表されるはずだった日にヴェイガンや木連の存在を認知し、謝罪・和解が行われる予定だったというクロスオーバーがある。
- 実は、本作では碑文のほかに、「もう一つの箱」として、EXA-DB(厳密にはその一部のコピー)にアクセスできる端末が入っていた。しかし、ミネバらがメガラニカでラプラスの箱を開示した事により、端末の機能は失われた。
- その背景故、『ガンダムUC』決戦シナリオでは、BX、袖付き、ヴェイガンによる三つ巴の箱争奪戦が勃発する事になる。
- また、ムネタケ・サダアキが病んでしまった原因も、ラプラスの箱の正体発覚に絡んだ物となっている。
VXT三部作編集
- スーパーロボット大戦V
- 箱の存在はジオンの高官達の間で「アースノイドとスペースノイドの戦いを終わらせるもの」として半ば伝説のような形で伝わっており、それを知ったミネバやナナイは自分達の組織に「ラプラス」の名を与えた。
- やはり箱の正体については原作と変わらないものの、今回はフロンタルとは和解した上で箱の解放に臨む。その際、フロンタルは「地球連邦がその誕生から宇宙移民からの搾取を考えていた証拠であり、スペースノイドの憎悪を燃え上がらせるもの」と、バナージは「宇宙世紀の始まりは本当は希望に満ち溢れたものであった」と、同じものでありながら全く正反対の解釈がされることになる。それ故に「禁忌であり希望」と評されることとなった。
- また、サイアムは生前のシャアに一度は箱を託したものの、過去に囚われることを拒否し、自らの力で未来を拓こうとしたシャアは箱を解放しないままであった。そして、バナージとミネバ、そしてフロンタルの3人もまた、アースノイドとスペースノイドの戦いを自分達の手で終わらせることを誓い、箱の真実は世界に伝えられることなくそのままサイアムと共に歴史の影に消えていった。
- なお、宇宙世紀世界と同様の起源を持つ新正暦世界にもラプラスの箱は存在したものの、その公開を恐れた連邦政府の情報操作により、「空白の10年」と呼ばれる動乱の時代を生み出すこととなった。
単独作品編集
- スーパーロボット大戦DD
- 箱の正体については原作と同じ。複数の並行世界がゲートで繋がった本作ではサイアムとアムロが「もう事はこの世界だけでは済まない」という発言をしており、原作以上に意味の無い代物になっているような印象を受ける。
- スーパーロボット大戦30
- 『NT』が参戦している関係で、本編開始以前に既に開示されている。その影響で地球連邦の信頼がガタ落ちし、ザンスカール帝国の台頭を許した。
- 一般社会では箱を巡る一件は「ラプラスの箱騒動」とも呼ばれ、ネット上ではその裏に存在した「白いモビルスーツ」の噂がまことしやかに囁かれている。
- 本作では箱の開示はクエスターズによる干渉があったとされる。ゼロレクイエムと人の心の光によって人類は平和を手に入れたが、それが永遠に続くかどうかを実験するためにクエスターズはラプラスの箱の開示を促した。箱の管理者は過去に目を背けては真の平和を掴むことは出来ないと考え、あえてそれに乗ることにした。
- 箱の開示によって再び人類同士が起こったものの、エンジェル・ハイロゥが新たな人の心の光となったことで地球人類は再び平和な未来に向けて進み始めた。
関連用語編集
- 地球連邦政府
- 箱が開放されると自分達の地位を失う為、箱を保護する。
- ビスト財団
- 箱が開放されると自分達の利権を失う為、箱を保護しようとするマーサ・ビストを中心とした一派と、地球圏の閉塞を憂い箱を開放しようとするサイアム、カーディアスの一派に別れ争う事になる。
- 袖付き
- 箱を開放することにより自分達の権利を得る為、箱を奪取せんとする。
- ラプラス事変
- 箱の争奪を発端とする袖付きとビスト財団、連邦軍による騒乱。地上のジオン残党をも巻き込み、一時は第三次ネオ・ジオン抗争として認定する動きも見られるほどにその戦火を拡大させた。
- ユニコーンガンダム
- 1号機にのみ搭載されている「La+(ラプラス)システム」は、箱の所在地を探索するのに最も重要なものである。数奇な運命から、カーディアスの実子であるバナージ・リンクスがパイロットとなった。
- メガラニカ
- インダストリアル7のコロニービルダー。内部にラプラスの箱とサイアムの眠る氷室がある。正体は巨大航宙艦であり、ちゃんと武装も稼動するほか、中継衛星をジャックする事で地球上のあらゆる通信・放送システムに介入する設備を備えている。
- 名前の由来はギリシャ人が世界球体説を唱えた際に、南半球にあると考えていた架空の大陸「メガラニカ」。
- ラプラス (組織)
- 『V』に登場する組織。スペースノイドとアースノイドの戦いを平和的に終わらせる方法を模索しており、そのための鍵となるラプラスの箱の名を冠している。
余談編集
資料リンク編集
脚注編集
- ↑ わかりやすく言うと「連邦政府はスペースノイドの権利を認めるつもりが最初から無かったんじゃないか」という疑惑に強固な裏付けが成立することになる。
- ↑ とはいえそれから時が経つと地球連邦は形骸化していき宇宙側とのバランスは崩れ、スペースコロニー群それぞれが争い合う『宇宙戦国時代』へと向かっていくので箱の解放自体は意味は無かったかもしれないが、解放することによる宇宙側が政治の中心になっていくという未来への『祈り』は(争い自体は黒歴史も考えると遥か未来まで長らく続いたものの)叶ったといえる。
- ↑ バトルスピリッツ公式の2024年3月8日のポストより。