スーパーデフォルメ(Super Deformed)
デフォルメ
デフォルメ(deformer)とは『変形させる』という意味のフランス語。英語表記ではデフォーム(deform)となる。
絵画・彫刻の分野などでは、対象や素材の形態を変形して表現することで、創作者の考えるテーマを強調する技法のことを指す言葉として「デフォルメ」が使われている。
現在の日本では、全体のデザインを簡略化したうえで特徴的な部分のみ誇張する技法のことを「デフォルメ」と呼ぶことが多いが、これは下記の「スーパーデフォルメ」の方の意味が影響されてしまった結果であり、芸術分野でのデフォルメは簡略化に限った技法ではない。
スーパーデフォルメ
日本独自の用語として「スーパーデフォルメ」(略語・SD)がある。これは、リアル頭身の対象を低頭身化・簡略化して、丸っこく可愛らしい外見にすることで、コミカルでルーズな雰囲気を強調する技法のことである。
元々は『SDガンダムシリーズ』のために作られた用語であり、「スーパーデフォルメ」はあくまでバンダイの商標登録なのだが、1990年代ではSDガンダム以外にも様々なキャラクターを低頭身化・簡略化させた玩具が作り出され、児童雑誌ではバンダイ以外の製品の紹介でも「SD」という言葉が当たり前のように使われていた。この結果、「SD」という言葉は低頭身化・簡略化のデザイン傾向そのものを指す言葉として認知されていった。
近年では版権や商標に関する社会全体の意識が昔より高まっているため、メディア上で「スーパーデフォルメ」「SD」という単語が安易に使われることは少なくなった。現在ではこのような傾向のデザインを指す一般名詞としては「デフォルメ」が使われることが多い。これが上述したように「デフォルメ」の意味が原義ではなくSDと同義に使われるようになった一因である。また、メカではないものに対しては「ちびキャラ」という言葉が使われることもある。こちらは日本語として一般的な意味合いであることから商標にはなってない。
なお、英語圏では「Chibified」となどと呼ばれることもある(Chibiは日本語のチビ)。これは「deformed」に「奇形の・醜い」といった悪い意味があるためである。
SD形成史
SDガンダム以前
SDという言葉はSDガンダムが作り出したものだが、キャラクターを低頭身化・簡略化させてコミカルさを強調する技法はそれ以前から試みられていた。原点と言えるのは、比較的シリアスな漫画作品に挿入される息抜きのギャグシーンやパロディシーンで、キャラクターを「崩した絵」で描くことである。この技法は1970年代の少女漫画界で生み出され、現在に至るまで漫画技法の定番のひとつである、
SDキャラクター全盛期を支えたデザイナーの一人である佐藤元によれば、低頭身キャラクターのデザイン技法を洗練させたのはアニメ誌「月刊OUT」の投稿者のコミュニティだとしている。『宇宙戦艦ヤマト』のヒットで中高生の若いアニメファンが、上述した少女漫画的な技法のお遊びとして「崩しキャラを使ったパロディイラスト」を月刊OUTに多数投稿しており、当時の若い世代のアニメファンや、アニメ製作者の間でそういうセンスが浸透されていった。1980年代に入ると、影響を受けた作り手側がそのようなセンスを商業作品に落とし込むようになり、アニメ『超力ロボガラット』や食玩シールの『ビックリマン』シリーズ、タカラのミニカー玩具『チョロQ』など、キャラクターデザイン(メカデザイン)の低頭身・簡略化を手抜き感なく高い完成度で実現した商業コンテンツが世に出てくるようになった。そして、1980年代後半には当時のOUTの読者世代がプロとして企画側になり、彼らによって爆発的にSDキャラクターが量産された、というわけである。
「スーパーデフォルメ」の誕生
「スーパーデフォルメ」の用語の元祖であるSDガンダムは、カプセルトイ(ガシャポン、ガチャガチャ)の消しゴム人形から始まった企画である。
「消しゴム人形」とはプラスチック消しゴムの材料である塩化ビニル樹脂で作られた人形のことで、1970年代の「スーパーカー消しゴム」のブームで一気に広まった。原材料コストが安いうえに簡単に加工ができることから安価なミニチュアの素材として好まれ、1980年代には『キン肉マン』の「キン消し」や、『機動戦士ガンダム』の「ガン消し」など、様々なアニメや漫画のキャラクターが消しゴム人形として多数作られ、大人気となった。タカラ・バンダイなどの玩具メーカーだけでなく、食玩市場から菓子メーカーもカプセルトイ市場に参戦し、まさに百花繚乱の状態となる。
これらの消しゴム人形は安価であることこそが重要で、それゆえにコストをかけてまで凝った造形を行うわけにいかなかった。そこでバンダイは逆手をとって、ガンダムシリーズのモビルスーツを二頭身にまで極端に簡略化した消しゴム人形を売り出した。このシリーズ商品につけられた名前は『スーパーデフォルメガンダムワールド』であり、その略称として『SDガンダム』が使われていた。これが「スーパーデフォルメ」そして「SD」という名前の初出である。
SDガンダムが画期的だったのは、「ガンダムをモデルにした独自のキャラクター」という一種のセルフパロディ商品として売り出されたことである。子供達が手にするのは「造形が安っぽいガンダムの人形」ではなく、擬人化されてしゃべりもするギャグ風のキャラクターの人形なのである。安っぽい造形はむしろこのコミカルさを生み出すスパイスとなり、それまでマイナス要素だと思われた部分がそっくりそのままプラス要素となったのである。
SDガンダムはカプセルトイのみにとどまらず様々な玩具として売り出され、その人気からゲームやアニメともなり、現在に続く『SDガンダムシリーズ』が生まれ、「武者」「騎士」など様々な作品・キャラクターを生み出しバンダイの黄金期を支えた。このヒットを受け、ガンダムシリーズ以外でも版権キャラクターをSD化して「独自のコミカルなキャラクター」とする玩具を売り出す手法が様々な企業で展開された。1990年代前半はこのようなSDモノが乱立していた。
パロディからの脱却
SDというデザインはどうしてもシリアスさよりコミカルさの方が強調されるため、版権SDキャラクター玩具が押し出す独自キャラクター性はコメディリリーフに特化したものが多かったが、SDデザインそのものが受け入れられるに従って、版権SDキャラクターの独自キャラクター性をシリアス方向でも出していく方向性が開拓されていった。
コミカルな低頭身キャラクターでもハードで重厚な世界観を表現できることは、ロッテの食玩シール「ビックリマン 天使VS悪魔シール」の大ヒットにより前例があったため、それに追随する形で神話的で壮大な世界観がいくつかの版権SDキャラクターの展開のために作られるようになった。SDブームと同時期には『ドラゴンクエスト』によって始まったファンタジーRPGブームが存在しており、その影響も多大にあった。代表的なものに『騎士ガンダム(SDガンダム外伝)』『武者ガンダム(SDガンダム戦国伝)』がある。
上記の「武者」「騎士」は大きな人気を経たが、物語性の強い世界観になればなるほどそこで活躍するキャラクターのデザインには世界観に根ざしたものがある程度求められるため、元の版権キャラクターのデザインを残さないといけないという都合上、「武者」「騎士」以外では成功例と言えるものはほとんどない。
しかしこのやり方は版権SDキャラクターでなく「SD化されたオリジナルキャラクター」を玩具会社が売り出すための手法として注目された。その多くは「騎士」「武者」の路線を引き継いだ「ファンタジーRPG的世界観とSD体型のロボットを組み合わせた冒険もの」である。端緒となったのがタカラが玩具展開した『魔神英雄伝ワタル』で、他にも『魔導王グランゾート』、『NG騎士ラムネ&40』、『覇王大系リューナイト』、『からくり剣豪伝ムサシロード』、『RPG伝説ヘポイ』など様々なものが1980年代後半~1990年代前半にかけて乱立するかのように作られた。しかしそれらの作品はファンタジー世界観に起因する他作品との合わせづらさが問題なのか、スパロボへの参戦が極めてレアなケースとなっている。また、背景がファンタジー的でないものとしては『超特急ヒカリアン』、『疾風!アイアンリーガー』などがあるが、これらも背景には比較的シリアスな設定が盛り込まれており、SD=コメディものというかつての図式から脱却していることが分かる。
ブームの収束と浸透
1990年代後半に入るとキャラクタービジネスとしてのSDの大ブームの熱は引くが、SDのデザインを好む需要は世代を超えて浸透した。
現在では、極端な低頭身で可愛らしさを強調したキャラクター自体は当時以上に増えている。地域振興キャラクターとして世間をにぎわせている「ゆるキャラ」のデザイン傾向はその典型例とも言える。
21世紀の現在ではカプセルトイをはじめとした安価な景品玩具の彩色造形技術が前世紀とは比較にならないほど上昇しており、海洋堂のチョコエッグのブーム以降、リアルな造形でかつ安価な景品玩具が多数発売されるようになっている。しかし、SD化されたキャラクター商品も安定した人気をもっており、2~4頭身に省略化された安価な景品人形は現在でもカプセルトイや食玩、クレーンゲームなどをにぎわしている。もちろんSD景品モノも彩色造形技術向上の恩恵は受けており、現在の安価な低等身人形が持つ関節稼動や変形・合体などのギミックの搭載や、塗装の細かさなどは、『SDガンダム』が生み出された当時のそれとは比べ物にならない。
SDの世界観
SDガンダムが真に画期的であったのは「オリジナルとは別の独自のキャラクター」としてSDキャラクターを確立させたことというのは先に記したが、これを強調するために、二次創作パロディとしてのギャグイラスト、ギャグ漫画が製品のオマケとして用意され、「コミックボンボン」などの幼年雑誌で漫画連載をするタイアップも惜しみなく行われた。これらにより「SDキャラクターたちの性格」や「彼らがドタバタコメディを行う舞台」が掘り下げられていった。
それらの漫画作品では、SDガンダムは人が乗り込むロボットではなく、擬人化された意思ある存在として生き生きと描かれていた。これを物語として見せられてしまえば、版権SDキャラクター玩具が本編に出てくるロボットとは異なる「独自のキャラクター」であることが子供達でも分かり理解される。
版権キャラクターに元ネタと無関係にキャラクター性をつける手法は、見た目が無機質なロボットや非人間的な怪獣・宇宙人のようなキャラクターにこそ有用に働いた。つまり、ロボットと特撮ヒーローと怪獣・怪人である。これらは元ネタの外見からイメージできるキャラクター性が希薄というのが大きい。その外見に対してどんな性格をつけても許容されるのである。そのため、商業化された版権SDキャラクターの多くはロボットアニメか特撮が元ネタとなっている。
無理にパロディであることを強調しなくてもSDキャラクターが受け入れられるくらいブームになってからも、「本編とは別の世界観」を漫画などで表現していくという手法は多様された。これは「武者ガンダム」「騎士ガンダム」のようなシリアスな背景世界を生み出すために特に効果的に使われ、その流れが「オリジナルのSDロボットアニメ」の誕生につながっていくのは上述したとおりである。
このように、版権原作があるキャラクターをSD化するということは、原作と異なる雰囲気や世界観を表現することでもあり、原作ファン向けの原作再現が意識されるスーパーロボット大戦シリーズでSDというデザインが使われているのは極めて特殊なケースである。
SDと著作権
版権キャラクターをSD化する玩具を作る場合、問題になるのがその版権キャラクターの著作権である。
SD化は原作キャラクターとは異なる独自性を持たせることができる技法であるが、デザインやキャラ設定の独自性が原作とかけ離れすぎている場合、盗作・模倣と見られかねない。そのため、版権モノのSD展開をする場合は、そのキャラクターの件関係でトラブルが起こらないように慎重な版権管理が必要になる。SDというデザインそのものは浸透する一方で、版権モノのSD企画よりもオリジナルSDキャラを作る企画に玩具市場の興味がシフトしたのも、この版権管理の難度が背景にある。
逆に、この部分に長けた玩具会社がバンプレストである。バンプレストは「アミューズメント市場にキャラクタービジネスを行う」ために立ち上げられた企業で、様々な版権キャラクターをSD化してアミューズメントセンターでのみ手に入る特別な景品として御したことが、バンプレストの基本経営戦略のうちの一つを支えた。これらの経緯から、様々な版権を得たバンプレストが独自にゲーム開発したのが、版権SDキャラクターによる「コンパチヒーローシリーズ」と呼ばれる作品群である。
やがてそこから初代『スーパーロボット大戦』が誕生し、後に『スーパーロボット大戦シリーズ』として派生・独立していくこととなる。
スーパーロボット大戦シリーズにおけるSD
スパロボ(SRW)の前進にあたる「コンパチヒーローシリーズ」は、版権SDキャラクターが「独自のキャラクター性」をもって独自の世界観で過ごしている、という従来のSDキャラクターの手法が踏襲されていた。
初代の『スーパーロボット大戦』もその手法にあったのだが、『第2次スーパーロボット大戦』からはコンパチヒーローシリーズとは異なる独自の路線を歩み始めた。登場するロボットやキャラクターは原作アニメとほぼ同じ設定を持つものとして扱われ、画面上で表示されるユニットのグラフィックのみ、SD化されたものが使われた。この流れは現在でも続いており、スパロボの一つの特徴となっている。
近年では、戦闘アニメーションパターンの発達や動きの再現の為か、3~4頭身程度でシャープさを残すデフォルメになっており、「2~2.5頭身のコミカルなデフォルメ」というSDのイメージとは若干異なるようになっている。特にOGシリーズやZシリーズにおいてその傾向がよく見られる。
原作アニメ設定を踏襲しているスパロボシリーズが、あえてSDキャラクターを使っている理由としては様々なものがあるが、ファンの間では以下の点が良く指摘される。
- サイズ差の違和感の軽減
- アニメ作品によってロボットの設定上の大きさは異なる。ダンバインは7メートルだが、ダイターン3は120メートルである。そして、多くのロボットアニメ作品は主人公ロボが敵と戦っているとき、TV画面上に敵味方の両機が見切れずに映るように、敵メカや味方の他の機体が主人公ロボと似た大きさにしている。主人公より極端に巨大な敵や小さい敵と戦うのは、それだけで特別なシチュエーションとして扱われるのが普通である。
- しかし、極端にサイズが違う主役ロボが共演するスパロボでは、極端にサイズが違う敵と戦うのは常に起こる。もしもダンバインがダイターン3と同程度の大きさのメガボーグと戦うとき、ダンバインの全身が画面上に映るようなカメラ配置を意識した場合は敵は顔さえ映りきらない。逆に、ダイターン3がダンバインと同程度の大きさのオーラバトラーと戦うとき、ダイターン3の全身が映るようなカメラ配置を意識した場合は敵は点にしか見えなくなる。『スーパーロボット大戦Scramble Commander』シリーズはそのカメラ視点による見え方の差をあえてゲーム性に取り入れているが、このシリーズはスパロボの中でも変り種の扱いであり、スパロボを好む多くのロボットアニメファンは「戦闘シーンで、敵味方のロボットの全身が画面上で見れること」を望んでいる。
- そうなると設定上のサイズを無視して、全ユニットを同じような大きさのグラフィックにした戦闘アニメーションを作るしかない。その「ウソ」の違和感を軽減するための方法論がSDというデザインなわけである。SDだとなぜ違和感が軽減されるのかということはなかなか言語化はしにくいが、SD化せずにサイズ設定を無視した『新スーパーロボット大戦』では、この違和感が今まで以上に強調され、プレイヤーや開発者からの評価は思わしくなかった。
- なお、スパロボのSDデザインでは大きめのイメージを持つユニットは比較的大きめに、小さめのイメージを持つユニットは比較的小さめに描かれており、サイズ差による迫力みたいなもの伝えることも意識はされている。
- ハードの性能との兼ね合い
- スーパーファミコンの頃の時代まではゲームのグラフィック性能で、アニメそのままのロボットのデザインを表現することは難しく、そのためにSD化による簡略がどうしても必要であった。
- しかし、現在のゲームハードの性能ではこのような壁はほぼなくなっている。
- 開発コストの軽減
- SD化はデザインの「簡略化」であり、これはゲーム上のグラフィック作成でも同じことである。原作そのままのデザインを再現するより、複雑な意匠を簡略化した方が手間は軽減される。SD化がファンの間でもて受け入れられているならば、わざわざそれを覆してコストを高める必要はないという判断である。
- 版権コストの軽減
- 創通が関わる作品は、リアル等身で登場させると番組ごとに著作権料を支払わなくてはならない。しかし、ガンダムシリーズについてはSD化させれば「SDガンダム」のみの著作権料で済むとされており、膨大な額になると思われる著作権料を少しでも安く抑えられるというメリットがある。
- ただし、『第2次スーパーロボット大戦Z』のカットイン演出では、ガンダムシリーズのモビルスーツがSDではなくリアル等身で描かれており、個々のガンダム作品に版権料を支払っているにも関わらず、あえてSD化を選んでいることが判明している。