サイアム・ビスト (Syam Vist)
「ビスト財団」の当主にして、創設者。常に冷凍冬眠を繰り返しており、頭部に脳波コントロールを行うヘアバンドを身に付けている。「ラプラスの箱」と呼ばれる地球連邦政府の実存を脅かす品物を所持しており、その品物を利用して政府を強請ってきた。
その経緯には、宇宙世紀元年に起きた「ラプラス事件」と呼ばれる爆破テロが関係する。
ラプラス事件
当時、貧困から報酬目当てでテロの実行に加わった若者サイアムは、仲間とともに作業艇で逃亡する最中、カウントダウン直前に官邸からの生放送で聞いた「他人の書いた筋書きに惑わされるな。“可能性”という自らの内なる神の目をもって、これから始まる未来を見据えよ」というマーセナス首相の演説を思い出した。
やがて逃亡途中に、口封じのために艇内に仕掛けられていた時限爆弾が起爆し、作業艇は実行犯達を乗せたまま爆破されてしまう。サイアムはたまたま船外作業で外にいたために爆発に巻き込まれずにすんだものの、衝撃で吹き飛ばされ宇宙を漂い、その中で幻を見た。それは、当時存在するはずのないザクの部隊と、一年戦争におけるコロニー落としの地獄絵図であった。我に帰ったサイアムは、爆破されたラプラスの残骸の中に、自分と同じ速度で漂う、地球光を反射して輝く不思議な箱形の物体を発見。奇跡的に民間船に救助された後、サイアムは箱型の物体とともに地球に帰還する。
なお、ラプラス事件当時、彼には残された家族である母と妹が存命していたが、自らが事件の実行犯の中で唯一の生存者になったため、彼女らに危険が及ぶことを怖れ、2度と再会しなかった。
生還後
地球へ帰り着いたサイアムは、公的には既に死亡したことになっている自分の立場を利用し、地下社会へと身を投じる。そこで頭角を表した後、事件後10年が経過した頃になって、サイアムは思い出したように連邦政府に接触した。テロ事件の現場から地球へ帰還したサイアムと、ラプラスの破片群の中から持ち帰った箱形の物体の存在は、連邦政府首脳部を大きく揺さぶった。サイアムがあの日ラプラスの残骸の中で手に入れた箱形の物体は、セレモニーで公開されるはずだった宇宙世紀憲章の石碑であった。事件後、石碑はレプリカが作られ公開されていたものの、サイアムが持ち帰ったオリジナルの石碑にはレプリカにはない章立てがひとつ多く彫られていた。それは簡単に言えば、「現代で言うニュータイプを連邦政府の運営に参画させる約束」であった。
テロの実行犯達に生き残りがおり、あろうことか、その者は連邦政府の自作自演を証明できる石碑を持ち帰っていたという事実は、連邦政府首脳部を驚愕させた。石碑を奪取する計画、あるいはサイアムを暗殺する計画は無数に立案されたが、結局それらが実行に移されることはなかった。サイアムは石碑を盾に連邦政府をゆすりはしたものの、問題の大きさに比べれば大したことのない要求を繰り返すのみで、決して連邦政府の逆鱗に触れるような真似まではしなかった。どころか、サイアムは逆に政府関係者との癒着を深め、巧みに立ち回った末、サイアムは連邦政府との間に石碑の存在なくしても自身を無視できないような共生関係を作り上げていった。
そして、箱形の物体はいつしか「ラプラスの箱」と呼ばれ、連邦政府内で恐れられるようになっていった。サイアムと連邦政府の首脳部以外に誰もその正体を知らないままに、「ラプラスの箱が開かれる時(=それが世界に公開される時)連邦政府は滅びる」といった噂だけが都市伝説的に連邦政府関係者の間に浸透していったのだった。
最終的な目的は、彼の意図しない方向へと突き進むジオンの消滅と、対立する双方から歩み寄った者、「ニュータイプ」を見出すことである。この後の経緯や「箱」とジオニズム、連邦の関係は本Wikiの「ラプラスの箱」の頁に詳しいが、最終的には「箱」の鍵たるユニコーンガンダムのパイロットとなった曾孫バナージ・リンクスと彼に寄り添うジオンの忘れ形見オードリー・バーン(ミネバ・ラオ・ザビ)と邂逅したサイアムは、「箱」の真実と地球に生まれた瞬間から進化を続けてきた生物の可能性、自分が宇宙世紀元年に起こしたテロの際に見た幻覚とその意味、100年近くの間胸にしていた思いを伝えた後、生命維持装置を停止させ(小説版ではメガラニカの起動と生命維持装置をリンクさせている)、長過ぎたその人生に幕を引いた。
OVA版での担当声優は『機動戦士ガンダム』のナレーションを務めた永井一郎氏。この起用には「『機動戦士ガンダム』のナレーションは、サイアムによるモノローグである」という意味が込められている。
登場作品と役柄
Zシリーズ
- 第3次スーパーロボット大戦Z時獄篇
- 度々会話で語られる程度。
- 第3次スーパーロボット大戦Z天獄篇
- 初登場作品。『UC』シナリオの決着となる第45話「虹の彼方に」および第46話「守るべき未来」で登場し、原作とは異なる「箱」の真相と経緯についても克明に語ってくれる。
- 本作では、原作と異なり死亡しない。
携帯機シリーズ
- スーパーロボット大戦BX
- プロローグから登場。『UC』の最終決戦終了後、原作通り死亡するが、今際の際にオードリーへAGEシステムの真の意義、そしてアスノ家がそれを受け継いできた意味を伝える。
人間関係
- バナージ・リンクス
- 曾孫。サイアムが見出した未来を切り開く人物。しかし、サイアムにとってはそれ以上の存在になってしまった。
- カーディアス・ビスト
- ビスト財団の一員で、孫に当たる。原作小説では「血縁者の中で自らの後継者を任せられる力量のある人物は、カーディアスしかいなかった」とのこと。
- 次男
- 名前は劇中では明らかにされていない。カーディアスとマーサの父親。原作小説で明かされた過去によると、サイアムは己の次男の力量を大して評価しておらず、次男はその事にコンプレックスを抱いていた。
- 更に、次男は父・サイアムが財団の当主の座から退かないばかりか、時間があれば冷凍睡眠で寿命を永らえていることに疑念を抱き、やがて現状に不満を抱く財団内の勢力に唆されて、父・サイアムに反旗を翻すことを決意した。
- しかし、サイアムはラプラスの箱を守るため、当主を引退するわけにはいかず、最終的には交通事故死という形で次男を謀殺することになる。
- この出来事は次男を唆した勢力を震え上がらせ、彼の子供達であるカーディアスとマーサにも多大な影響を与え、サイアム自身も罪悪感から急速に老け込んでしまうことになる。
- マーサ・ビスト・カーバイン
- ビスト一族の一員にして、アナハイム・エレクトロニクスの社長(ただし、名前は劇中では明かされていない)の妻になった女性。カーディアスの妹なので、彼女も孫に当たる。
- 上記の父親が謀殺された事件が原因で、彼女はサイアムとその後継者となったカーディアスを憎んでいる。
- アルベルト・ビスト
- ビスト一族にして、曾孫に当たる。彼にとってサイアムは殆ど会った事もない遠い存在。
- オードリー・バーン(ミネバ・ラオ・ザビ)
- ジオンの末裔。サイアムが見出した未来を切り開く人物。
- フル・フロンタル
- 彼曰く「過去の亡霊」と評された。
- ガエル・チャン
- カーディアスの側近。カーディアス亡き後は冷凍冬眠により身動きできないサイアムの手足として動く。
他作品との人間関係
- イオリア・シュヘンベルグ
- Zシリーズでは亡き盟友の一人。彼と共謀し、「箱」の開示に備えた準備を整えていた。
- 『BX』においても、人類の未来を願った彼の祈りを知った事で箱の開示を決断した。
- エルガン・ローディック
- Zシリーズでは亡き盟友の一人。ADWと呼ばれる事になる世界から彼がやって来たことにより、並行世界の存在と人類の管理者の存在を確信することになった。
- 御使い
- Zシリーズでは、ラプラス事件の折に爆発に巻き込まれた際、爆風の中に「寂しげに微笑むテンシ」を目撃した。
- ちなみに、この時サイアムが見たテンシとは、おそらく哀しみのサクリファイだと思われる(「アドヴェントではないか」とバナージが推測した際、アドヴェントから真相を聞かされたフロンタルは否定している)。
- ジスペル
- 『BX』では、プロローグの台詞から察するにその存在を知っていた可能性が高い。
スパロボシリーズの名台詞
- 「あのエルガン・ローディックの来訪により、私は並行世界の存在と絶望の未来を知った……」
「そして、ラプラス事件の直後、爆発の光の中に見た寂しげに微笑む者……それは私に人類の管理者の存在を確信させた」
「私もイオリアと同じだ。いつか、その獄を破るだけの力を持った存在が現れるのを待ち続けた。そして、その願いは叶った……」 - 『第3次Z天獄篇』第46話「守るべき未来」より。オードリーから「大時空震動の前からADWを知っていたのか?」と問われて。
- 並行世界からやって来たエルガンの存在と、彼の語る絶望の未来……それとラプラス事件の記憶を組み合わせ、サイアムは人類を管理する何者かがいることを確信した。
- その構造を打ち破る存在を待ち続け、世界が新たな局面に向かう今、その願いは叶えられた。可能性と未来を奉じる人類最強の特務部隊「Z-BLUE」として。
- 「そうだ…。人は過去の過ちから、何も抜け出せてはいない…このままでは、地球圏は逼塞する。あの男が危惧したようにな…」
「人は神を持っている…今を超える力…。可能性という、内なる神を…」
「そして、その神は受け継がれていく事で、やがて真なる神すらも凌駕する希望となる…だからこそ私も託そう…この、小さな可能性を…」 - 『BX』プロローグより。参戦作品からミケーネ神を連想したプレイヤーもいたが、「今を超える」と言う部分から、おそらくジスペルの事を言っていたのであろう。